yamada-isak's thinking

できるだけ自分自身できちんと考えたことを書きたい。できるだけ、ね。京都から日本を、世界を考えます。

ODAとの対比で考える/住民参加プロセスの確立のために

Huffington Post Japan/2013年6月2日付け記事

TICAD V:モザンビークの人々から安倍首相に手渡された驚くべき公開書簡

http://www.huffingtonpost.jp/maiko-morishita/ticad-v_b_3373974.html

この記事に関連して「住民参加プロセス」について、このODA案件と参考に、国内での公共事業や大規模開発などを念頭に考えてみました。

私は上記記事の内容には概ね賛同しますが、公開書簡原文をはじめ、基礎資料への参照などが不十分だと感じましたので、PROSAVANA計画について、少し調べてみました。

2010年3月18日「日本農業新聞」に、JICAシンポジウムで本件の報告について記事があるそうです。そしてこの記事内容についてのコメントとプロジェクトへの懸念が以下に提起されています。
日本 モザンビーク農業開発協力を本格化 アフリカ農地争奪戦で一角確保?

それまで公開されていなかった本件マスタープラン暫定版のリークがあり、2013年4月29日付けで、その内容についての批判が以下に掲載されました。
Leaked ProSAVANA Master Plan confirms worst fears

また、日本でも本件に関心を寄せるNGOが専門家によるマスタープラン分析と問題提起を2013年5月12日に公表しています。
【分析】ProSAVANAマスタープラン暫定案に関する専門家分析と問題提起

 

この件についての問題点は、以下の項目に整理できます。
(1)開発計画について地元ステークホルダーとの協議が不十分であること
(2)計画内容が公表されていないこと(リークによって内容は明らかになった)
(3)資本導入と企業による農業経営の大規模展開が計画の前提となっていること
(4)小規模農家の自営農地からの放逐、農地資源の収奪が懸念されること

(1)(2)は計画策定の「プロセス」に関わり、(3)(4)は計画内容に関わります。計画内容は正当なプロセスを経ることによって初めて関係者間で合意に達することができ、本件ではこのプロセスが明らかに正当性を欠いている、と言う点が、今回の公開書簡に至る上で重要な欠陥となっています。

こうした、公共事業における対話プロセスの不備は、ODAに限った問題ではなく、むしろ、私たち自身が深く関わっているはずの国内およびそれぞれの地元地域における各種の開発事業についても同様の問題があることに気づきます。私は、自身が都市計画や地域整備、まちづくりにおける住民参加プロセスの支援を本業としていることから、この問題の「国際性」に改めて気づかされました。

国際間のODA等による開発事業については、環境と社会への配慮について、以下のようなガイドラインがあります。
JICA(国際協力機構)環境社会配慮ガイドライン(2010.04)
FAO(国連食料農業機関)Voluntary Guidelines on the Responsible Governance of Tenure

これらの中でも、対象地域の環境や社会についての十分な調査とアセスメント、情報の公開、関係するステークホルダーやカウンターパートとの対話と合意形成などの必要性、重要性が強調されています。本件においてはこれらのガイドラインが遵守されたかどうかが、まず問題となるでしょう。

一方、私たちの国(日本)では、国内での公共事業について、こうした配慮の必要性を明記し、その手順を指示しするような法令や制度が、現在のところ存在しません。ODAと国内公共事業を比較すると「日本政府-JICA等-地元政府-地元住民等」の関係は「中央省庁-地元自治体-コンサルタント-地元住民」の関係と類似しています。国内公共事業が中央から地方への交付金、補助金に依存していることも類似性を強く感じさせます。本件においても日本側からの調査および計画策定の業務はJICAを通じてコンサルタント会社へ委託されたようです。

上記のような類似があるものの、大きな違いが一点あります。それは「コンサルタント(=調査・計画づくりの実動部隊)」がどの位置にあるか?ということです。国内公共事業の場合には(私を含めた)コンサルタント事業者は「自治体」と「住民」の間にあります。しかしODAでは「日本政府」と「地元政府」の間に位置しています。つまり、調査や計画づくりを行う日本の技術者たちは、地元住民などとの直接の対話の機会をあらかじめ封じられ、地元政府からのフィルタリングされた情報を「地元の意向」として受け取ることになります。このような事情は前記リンクのJICAガイドラインからも読み取ることができます。

さらにこうした制度的な問題とともに、我が国の国内公共事業における住民参加プロセスが、しばしば、すでに行政によって確定された計画の「説明会」に過ぎず、またワークショップ等によって住民参加プロセスが設定された場合にも、その裁量範囲が著しく限定され(細部の素材や色彩を決める、など)、往々にして行政の「ポーズ」を作るための儀式になっている、という実態を見るにつけ、私たち自身の「まちづくり」においてさえ住民参加プロセスが実効性のある社会制度、さらには意思決定における「文化」にまで昇華していないことの反映が、本件のトラブルにも影を落としているように思われます。

私が提案したいことは、以下の二点です。

a.国内における住民参加プロセスの確立
まず、国内の公共事業や大規模開発行為について、住民参加プロセスを制度的に確立し、その実効的な運用、情報の公開、過程と成果のレビューを確実に行うよう、必要な法制度、行政機構および技術者等の人材育成を進めることにより、住民参加プロセスを国内で根づかせること。

b.援助対象国における住民参加プロセスの確立
ODA等を行う場合には、地元政府(地方政府を含む)と地元住民の間に立ち、双方の対話を(上記の国内におけるプロセスと同等のものとなるよう)支援、実行する人材の育成、配置および組織・権限の適正な構成を前提とするよう、地元政府に強く働きかけるとともに、これを担う地元企業、NPO/NGOなどとのネットワークの構築を、事業実施の前提とすること。

以上です。

なお、このPROSAVANAについては、東京外国語大学の舩田クラーセンさやか准教授による詳細なレポート(2013年1月)があります。
Analysis of the discourse and background of the ProSAVANA programme in Mozambique – focusing on Japan’s role
レポートPDFへのリンク

東京外国語大学、舩田クラーセンさやか准教授